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一方的な別れの言葉を聞いて、一週間ほど経っただろうか。
柚木の靴箱に、一つの桃色の封筒が入っていた。『秋野くんへ』と書かれたその文字は、どこか丸く可愛らしい。
裏返して見てみれば、そこにはよく知らない女の子の名前が書いてあった。
「おはよー、秋野」
昇降口の入り口からかけられた声にそちらを振り返る。朝から元気の良い彼は、同じクラスの友人、夏樹翔。名字も名前も名前みたいだよなと、柚木はいつも思っていた。
「おはよ、夏樹」と、柚木は翔の挨拶に応える。サッカー部の朝練の後らしく、翔は少し整汗剤臭かった。
「……?それ何だ?手紙?」
封筒を開けていたら、靴と上履きを取り替えていた夏樹は訊ねてくる。「んー」と適当な返事をし、中身を出して。 書かれた内容は、よくある呼び出しのセリフ。
「ラブレターじゃん」
どうやら手紙を覗き見たらしい翔がそう言ってにやにやと笑う。柚木はちらりとそちらを見た後、「悪趣味」と言って封筒に手紙を戻した。
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