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「けどさ、秋野、恋人いるんじゃなかったっけ?」
二年E組の教室。窓際の、今の時期には少し暑すぎる自分の席。
前の席の翔は、こちらを振り返って不思議そうに言う。柚木は「ああ」と適当な声を出した後、「別れた」と応えた。
対して翔はちらりとこちらを見た後、「まあ、お前にしてはもった方じゃね?」と言って笑った。
たったひと月。けれど翔の言う通り、柚木にしてみれば長い方である。いつもは一、二週間で別れてしまうから。
だからこそ、彼女のこと結構分かったんだけどな。
思うも、彼女の方はそうでもなかった。それだけの話である。
「さっきのラブレターの子、誰?」
翔はそう言って頬杖をついてこちらを見てくる。「さあ。B組の子みたいだけど、知らない」と言えば、彼は困ったように笑って、「お前らしい」と呟いた。
「秋野、顔良いし、モテるからなぁ。羨ましいことで」
そう言ってくる翔に、「いや、お前恋人いるだろ」と言えば、彼は心底嬉しそうに「おう!」と言って笑った。そんな彼を見ながら、ぼんやりと思うのだ。
恋人がいると嬉しそうに笑う彼が、羨ましい、と。
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