第1章

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 折り紙を四分の一に切ったやつ。それが三枚重なってる。  首をのばし、カウンターを見た。イスを後ろにかたむけて、ちょっと高くする。  水色の箱がカウンターにのってる。中に赤いものが入ってる。  蛇男は席で、うつむいてなにかしている。  そうか。  この紙、さっき蛇男の持っていた箱から落っこちたのか。  イスを後ろに倒しすぎて、また引っくり返りそうになったのであわててもどす。  音をさせないように立ち上がって、カウンターまでのぞきに行った。  蛇男は本を見ながら、折り紙を折っていた。  はっきりいって、とってもへたくそ。角と角をきっちり合わせないから、白いところがはみ出して、きたない仕上がりだ。  まあ、むりもないかな。たいがいの大人は、折り紙が小学生よりへたっぴだし、四分の一の紙はずいぶん細かい。  けっこう近くでのぞいているのに、蛇男は折り紙に必死で気がつかない。  思わず、「これ知ってる」っていいそうになって口をおさえる。  折っているのは「さかな」だ。簡単なやつで、一年生のときによく折った。  奥には別の段ボール箱が置いてあった。中に、赤いさかなが数匹入ってた。  「ふう」  急に蛇男が首を上げてため息をついたので、あたしはぎくりと体を低くする。  蛇男は首をこきこきほぐし、自分のかたをもんだ。  そのすきに、あたしはそうっと席にもどった。  そのあと算数ドリルのかげで、こっそりさかなを三匹折った。  蛇男の十倍は早くて、三十倍はすてきなできばえだ。あんまりすてきだったので、あたしは三匹に目を描いた。おまけに、長いまつげもつけてあげた。  だれもいないカウンターの上に、あたしは三匹のさかなを置いた。  横の水色の箱には、赤い折り紙がぎっしり入ってる。  いったい何枚あるのか見当もつかないくらい、ぎっしりだ。  蛇男のスピードでこれ全部折るとしたら、きっと何十年もかかるだろう。  あたりにはだれもいない。  息を思いっきり吸いこんでから、止めた。箱から折り紙をひとつかみとって、折り紙をランドセルにつっこみ、走って家に帰った。    家でちょっと、やっかいなことが待っていた。  あたしが帰ったときには、もうおとうさんは会社へ行った後だ。これはいつもの通り。  なにか食べようとキッチンに行ったら、青い光がぴこぴこしているのに気がついた。  るす番電話が入っている。
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