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「蛇男を見に行こう、ほのかちゃん」
転校したてで人気者だったあたしは、そういって香姫に誘われた。
全然期待しなかった。
だって、柿の木町の見どころは、いろんな子にいろいろ教えてもらったけど、(たとえば、「絶対にねむらないねこ」とか、「誰もいない音楽室で鳴るピアノ」とか、「副校長のハート型はげ」とか)はっきりいって、どれもとってもしょぼかったからだ。
でも、この転校生特有の人気もあと数日の命だろうから、その間に友だちを作っとかなきゃまずいし。
「へびおとこ?」
あたしが恐ろしげに声をふるわせ、
「なにそれ、どういうこと?」
って聞くと、香姫はふふんと鼻でわらった。
本当の名前は香だったけど、みんなから香姫って呼ばれている。
たしかにお姫様って感じ。髪にくるくるりとすてきなウェーブがかかっているし、成績もよさそうだし、着ている服もいいやつだ。その上いつも自信まんまん。担任の織田先生すら、香姫には気を使っているみたい。
この子と仲よくなったら、まちがいない。
「見りゃわかるよ。じゃ、ランドセル置いたら、ソッコー校門前に集合ね」
香姫はいかにもお姫様らしく、あたしに命令した。
九月になったばかりで、夏と変わらないくらい暑い日だ。
真っ黒なかげが白くかわいた道に落ちている。せみというせみが、学校の木という木につかまり、わんわん鳴いている。
「どこにいるの?」
あたしは香姫に聞いた。
だがし屋の前を通ったら、「絶対にねむらないねこ」がねていた。
ようするに、おでこにマジックかなんかで、ぱっちりお目々を描かれちゃったかわいそうなノラねこだ。
でも、ねこはアイスクリームボックスの上でのびのび幸せそうだった。
香姫も幸せそうで、ごきげんだった。後ろで手を組んで、軽くスキップしてたと思ったら、いきなり、ねこのおなかにチョップを浴びせた。
あたしがぽかんと口を開いているうちに、ねこは「うぴゃーっ」って、人間みたいな声を上げて飛び上がった。で、二発目が発動する前に、全速力でいなくなった。
それに関する香姫の意見はたった一つだ。
「うざい」
あたしは少しねこぜになる。それ以上の質問はなしで、後ろをついていくしかない。
とりあえず暑さはふきとんだ。
着いたのは図書館だった。
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