第1章

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 「蛇男を見に行こう、ほのかちゃん」  転校したてで人気者だったあたしは、そういって香姫に誘われた。  全然期待しなかった。  だって、柿の木町の見どころは、いろんな子にいろいろ教えてもらったけど、(たとえば、「絶対にねむらないねこ」とか、「誰もいない音楽室で鳴るピアノ」とか、「副校長のハート型はげ」とか)はっきりいって、どれもとってもしょぼかったからだ。  でも、この転校生特有の人気もあと数日の命だろうから、その間に友だちを作っとかなきゃまずいし。  「へびおとこ?」  あたしが恐ろしげに声をふるわせ、  「なにそれ、どういうこと?」  って聞くと、香姫はふふんと鼻でわらった。  本当の名前は香だったけど、みんなから香姫って呼ばれている。  たしかにお姫様って感じ。髪にくるくるりとすてきなウェーブがかかっているし、成績もよさそうだし、着ている服もいいやつだ。その上いつも自信まんまん。担任の織田先生すら、香姫には気を使っているみたい。  この子と仲よくなったら、まちがいない。  「見りゃわかるよ。じゃ、ランドセル置いたら、ソッコー校門前に集合ね」  香姫はいかにもお姫様らしく、あたしに命令した。  九月になったばかりで、夏と変わらないくらい暑い日だ。  真っ黒なかげが白くかわいた道に落ちている。せみというせみが、学校の木という木につかまり、わんわん鳴いている。  「どこにいるの?」  あたしは香姫に聞いた。  だがし屋の前を通ったら、「絶対にねむらないねこ」がねていた。  ようするに、おでこにマジックかなんかで、ぱっちりお目々を描かれちゃったかわいそうなノラねこだ。  でも、ねこはアイスクリームボックスの上でのびのび幸せそうだった。  香姫も幸せそうで、ごきげんだった。後ろで手を組んで、軽くスキップしてたと思ったら、いきなり、ねこのおなかにチョップを浴びせた。  あたしがぽかんと口を開いているうちに、ねこは「うぴゃーっ」って、人間みたいな声を上げて飛び上がった。で、二発目が発動する前に、全速力でいなくなった。  それに関する香姫の意見はたった一つだ。  「うざい」  あたしは少しねこぜになる。それ以上の質問はなしで、後ろをついていくしかない。  とりあえず暑さはふきとんだ。  着いたのは図書館だった。
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