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はっきりいって、かなりぼろい。あたしが前いた町の図書館は白くてぴかぴかだったけど、こっちのはねずみ色一色、コンクリートのつまらない建物だった。知らないで前を通ったら、絶対に入ろうとは思わない。
ごろんごろんとすごい音のする自動ドアをくぐって入ったが、期待してたほどすずしくはない。なまぬるーい空気がかたまって、外のほうがさわやかなぐらいだ。
香姫はカウンターをちらりと見て、舌打ちをした。
「いない」
そのまま、階段を上がる。
あたしはもちろん姫様についていった。
二階は子どもの本のコーナーだ。小さめのカウンターで、きれいなおねえさんがにっこりした。
「こんにちは」
くり色の髪をゆるい編みこみにして、ふんわりまとめている。
あたしも長くのばして、ああいう髪型にしたい。でも、あたしの髪は黒くてかたくてばさばさなので、とてもあんなふうなやさしい感じにはならない。永遠にショートカットがさだめの悲しい少女なのだ。
香姫は返事もせず、きょろきょろ見回しながら奥へ進む。
あたしはおねえさんに見とれて、もうちょっとで本棚にしがみついていた香姫の背中にぶつかるとこだった。
「いた」
香姫とあたしは、たてになって本棚のかげから向こうを見た。
背の高い男の人が、本棚に本をもどしていた。
図書館の職員さんは、みんなエプロンをしている。その横顔に不思議なところはない。ちょっとカッコいいくらいだ。
「こっち向け」
香姫が念力をこめて、ささやいた。
「こっち向け」
あたしもいっしょに、念力をこめた。
念力がきいたのか、男の人はくるりとこちらを向いた。
あたしはさっきのねこみたいに飛び上がり、一気にカウンターの前まで逃げた。
香姫が追いかけてきて、聞いた。
「見た?」
「見た」
あたしはどきどきのむねをおさえた。
見たものが信じられなかった。
そこでもう一度しのび足で、さきほどの観賞ポイントまでもどる。香姫とあたしは、もう一度、たてになって本棚のかげから向こうを見る。
左半分は全然ふつう。だけど、顔の右半分が緑色なのだ。おでこも、ほっぺも、耳も首も、それから右手の甲も緑色だ。緑といっても、深緑からエメラルドグリーンまで、いろいろ混じりあってる。細かくごつごつしていて、図鑑で見る恐竜の皮みたい。
「なるほど」
あたしはすっかり納得した。
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