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帰り道、あたしたちはなんとなくなかよしみたいなノリで、手をつないで歩いた。
「どう思う?」
姫は聞いた。
「こわかった」
と、あたしは答えた。
「でしょ?」
香姫はにっこりする。
「わたしがあんな顔だったら、とっくに自殺してる。よく、人の前に出てこられるよね、まったく」
あたしはこっくりうなずく。
「生まれつきなのかな?」
「さあ? どうだろう」
香姫は人さし指を口にあてて、考えるふうになった。くるくるりんの髪がなびいて、あまいにおいがした。
「のろいかも。オヤジが蛇を殺したとか」
あたしは「きゃー」っとわざと声を上げ、香姫はげらげらわらった。
だがし屋まで帰ってきた。
アイスクリームのボックスの上には、別の茶トラがねていた。
香姫が近づこうとしたので、あたしはそのピンクのTシャツを引っぱった。
「やめなよ、かわいそうじゃん」
「なにそれ」
香姫はびっくりしたようにあたしをふりむいた。みるみるうちに、すごい顔になった。
それから、とんでもない早歩きで先に行ってしまった。
とちゅうまで追いかけたけど、ついていけなくてとうとう見失った。
その翌日、あたしの人気はぱたりと終わっていた。
朝、教室に入ると、おしゃべりしてたみんなが急にだまった。
ほっぺがひりひりする。
あたしはどきどきしながら「おはよう」といったけど、だれも目を合わせてくれない。
イスに座ったら、おしりがぐしゃりと冷たい。
「ひ」
声を出して飛び上がった。
入ってきた織田先生と入れちがいに、あたしは教室を飛び出した。
ろうかに出たとたん、教室がわっとわらい声にわいた。
スカートのおしりについた白くてねばねばしたものが、木工用ボンドだとわかったからといって、事態がよくなるわけではなかった。
ひかえめにいって、あたしの学校生活はびっくり箱に囲まれてしまった。
びっくり箱のバリエーションはたくさんあった。
朝、くつ箱の中に上ばきがなくても、うろたえてはいけない。何かほかのものが入っていなかったことに感謝すべきだ。
来校者用の緑のスリッパをぺたぺたさせて、あたしが教室に入ると、みんながいきなり静かになるひとときだって、十回も続けば何とか慣れた。
続いて、自分の席のチェックだ。
現実とはきびしい。チェックすらさせてもらえない朝もある。
机とイスが消えているのだ。
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