第1章

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 そのときはろうかに放り出してあったので、うんしょ、うんしょと教室にひきもどした。  それからイスの上に、木工用ボンドとか茶色の絵の具チューブとか油ねんどとか、そういうねばねば系の物質が置かれてないか確認しなければならない。  なければ、それでよし。あれば、除去。あたしは十日のうちに七枚のぞうきんをダメにした。  今度は机の中だ。  あたしはモノをなるべく学校に置いていかない主義だけど、習字や絵の具の道具をうっかり忘れて帰ると、そういうのが机の中につっこんである。  もっとキレイにつっこんでくれるとうれしいんだけど。そうはいかなくて、たいがい変わりはてたすがたで、ようするに使い物にならなくなっている。パレットやすずりは割られ、ぼく汁や絵の具の入れ物はつぶれ、さいほうセットの針山からわたがはみ出て、はさみがつきささっている。  それでは質問。そういう日々がまるまる二週間続いたら、あなたならどうしますか?   三タクでどうぞ。 1 先生にいう。つげ口とかチクリとかの前に、これだけハデにやられているのに、担任の織田先生はちっとも気がつかなかった。わざとじゃなければ、これはすごい。あたしが朝の会の真っ最中に、イスの上の油ねんどをこそげていても、まっぷたつに割れたすずりの片方で、小さく小さくすみをすっていても、先生はなにもいわなかった。きっと、あたしが「こんなことされたんですけど」って、先生にいっても、先生は「そうですか。では、席について」といいそうな気がする。 2 親にいう。こっちに引っこしてきたのは、おとうさんの仕事が急に変わったせいだった。前は毎朝スーツで出かけていたけど、今は倉庫で荷物の出し入れをしている。なんで急に変わったのかは、だれもあたしに教えてくれない。とにかくむちゃくちゃいそがしくて、疲れる仕事のようだ。よごれた作業着を着たまま、おとうさんはおそくに帰ってくる。ご飯のときにいねむりして、おでこをテーブルにぶつけることもある。その上、ケータイで呼び出されて、夜なのに仕事場にもどったりする。  おかあさんはあたしが五年生のときから入院している。家のことは中学生のおねえちゃんと、あたしでやっている。すぐにいばるとか受験生だとかいろいろ問題はあるものの、おねえちゃんが料理得意でよかった。 3 だれにもなんにもいわない。これはお手軽、便利。その上だれにもめいわくかけない。
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