第1章

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 今日の三、四時間目はプール授業だ。思い出したって、あたしの水着はこの前やぶかれちゃったんだから、泳げやしない。  その上おしっこまでしたくなってきた。のどがかわいてるのに、おしっこがしたいなんて、ずいぶん納得できない。あたしの体よ、おまえってば水分がほしいの? いらないの?  ついに足が止まった。  道をはずれて、あたしは近くのコンクリートのかべにもたれた。かべはなまぬるかったけど、そこにはばかでかい杉の木と、つつじの植え込みがあったので、道路の真ん中よりかはずいぶんましだ。  冷たい場所を探して、コンクリートのかべをずりずりずりずり、くっついたまま移動する。大根だったら、すっかり大根おろしになってるところだ。  あれ?  なんかこの建物、見覚えがある。  角を曲がったところに入り口があった。大きなバッグを持ったおじいさんが入るとこだった。ごろんごろん、とすごい音がして、自動ドアが開いた。  図書館、か。    あいかわらずパンチのない冷房だったけど、あたしにとっては、天国のようなすずしさだった。  おまけに、水飲み場もトイレもある。  生きるために必要ないくつかのことをすませ、とりあえず、ほっとした。  一階のカウンターではこの間二階にいたおねえさんが、おじいさんを受けつけている。  おじいさんが大きなバッグから本をざらざら大量に流しだすので、そろえて機械にかけるのが大変そう。  でもやっぱり、おねえさんの髪はくり色ですてきだった。  おじいさんったら、おねえさんの近くに長くいたいから、あんなふうに本をばらばら雑に出すのかも。だったら、美人の人生もそう楽じゃないね。  おねえさんが見ていないすきに、あたしはランドセルをおなかに抱え、二階に上がった。  二階にはだれもいない。  カウンターには「1かいで、かしだしして くれよな」と、きつねのキャラクターがウインクしている立て札がのっかっていた。  本棚の間にイスとテーブルがある。  イスに座り、教科書とノートとペンケースを引っぱりだし、ランドセルは足の下へ押しこむ。  ここで勉強しようと思った。勉強していれば、大人はきっともんくをいわないだろう。なにか、重大なわけがあると思うんじゃないか。  そこで時間割と時計をチェックして、まずは国語の教科書から読みはじめた。    あたしの読みは当たった。
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