527人が本棚に入れています
本棚に追加
今日の三、四時間目はプール授業だ。思い出したって、あたしの水着はこの前やぶかれちゃったんだから、泳げやしない。
その上おしっこまでしたくなってきた。のどがかわいてるのに、おしっこがしたいなんて、ずいぶん納得できない。あたしの体よ、おまえってば水分がほしいの? いらないの?
ついに足が止まった。
道をはずれて、あたしは近くのコンクリートのかべにもたれた。かべはなまぬるかったけど、そこにはばかでかい杉の木と、つつじの植え込みがあったので、道路の真ん中よりかはずいぶんましだ。
冷たい場所を探して、コンクリートのかべをずりずりずりずり、くっついたまま移動する。大根だったら、すっかり大根おろしになってるところだ。
あれ?
なんかこの建物、見覚えがある。
角を曲がったところに入り口があった。大きなバッグを持ったおじいさんが入るとこだった。ごろんごろん、とすごい音がして、自動ドアが開いた。
図書館、か。
あいかわらずパンチのない冷房だったけど、あたしにとっては、天国のようなすずしさだった。
おまけに、水飲み場もトイレもある。
生きるために必要ないくつかのことをすませ、とりあえず、ほっとした。
一階のカウンターではこの間二階にいたおねえさんが、おじいさんを受けつけている。
おじいさんが大きなバッグから本をざらざら大量に流しだすので、そろえて機械にかけるのが大変そう。
でもやっぱり、おねえさんの髪はくり色ですてきだった。
おじいさんったら、おねえさんの近くに長くいたいから、あんなふうに本をばらばら雑に出すのかも。だったら、美人の人生もそう楽じゃないね。
おねえさんが見ていないすきに、あたしはランドセルをおなかに抱え、二階に上がった。
二階にはだれもいない。
カウンターには「1かいで、かしだしして くれよな」と、きつねのキャラクターがウインクしている立て札がのっかっていた。
本棚の間にイスとテーブルがある。
イスに座り、教科書とノートとペンケースを引っぱりだし、ランドセルは足の下へ押しこむ。
ここで勉強しようと思った。勉強していれば、大人はきっともんくをいわないだろう。なにか、重大なわけがあると思うんじゃないか。
そこで時間割と時計をチェックして、まずは国語の教科書から読みはじめた。
あたしの読みは当たった。
最初のコメントを投稿しよう!