ふたり

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階段の五段目からは、埒があかなくて結局抱えてあがることになった。十二歳くらいの見た目よりも、あんまり軽くて、冗談ぬきに警察……児童保護施設案件だなと思った。 鍵だけはいいものがついているとはいえ、ボロい1DKの部屋に他人を招いたのは初めてだ。 「どうぞ、入って」 「おじゃま、します」 「ちょっと待って、今気づいたけど裸足じゃん。怪我してない?……タオル持ってくるからそこで待ってて」 靴も履いてない。今時、嘘でしょ? 同情をすると同時に、私は厄介ごとの気配にたじろいた。 濡らしたタオルで子どもの足を拭いながらも、ひどい人間だから、いかに適当に切り上げて、明日の仕事に体力を回すかを考えていた。時計は全部の針が右よりにてっぺんを向いている。予定より二時間出勤を遅らせて、上がりを終電ギリにして……。 「ところで、名前は?私、中之島」 「なまえ……貧乏神なので、そういうのないです」 「誰にそんなひどいこと言われたのか知らないけど、親がつけた名前があるでしょ」 「ないです」 「……じゃあ学校でテストのときに貧乏神って書くわけ?」 ちょっと苛立っていた。面倒事ゲージが振り切れている。 仕事帰りに疲労過多で、真夜中にネグレクトされたと思われる子どもを保護したら、この難易度。 「だから、本物の貧乏神なんです」 「君がとても辛い環境で育ってきたことはわかりました。わかりましたが貧乏神なのはわかりません」 今すぐ抱えて交番の前に放ってくるのが最適解かもしれない、疲れた頭ではそんなことが浮かぶ。 貧乏神?まあ私の人生にはつきまとってきたといえる存在だけど。こんな子どもが、貧乏神だとして、そのお陰で人生引っかき回されたんだとしたらあんまりってものだ。
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