ひまわりが咲く頃に

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 15年前──。  その言葉に、ハッとする。  15年前、確か県内外のボランティア活動に熱心だった父に連れられてこのくつわ町ファームのひまわりを植えに行ったことがある。  夢の中ほどひまわりは咲き乱れていなかったけれど、僕は……いや、僕らは、そこで確かにひまわりの種を植えた。 「僕ら?」  甦る記憶。  その当時、子供は僕と地元の一人の少女しかいなかった。  白いワンピースを着た、女の子。  僕は彼女と一緒に、確かにこの場所でひまわりの種を植えた。 「大きくなったら、見に来ようね」  そんな言葉を発していた。  リポーターのさわやかな歓声で、我に返る。  そこにはきれいに咲き誇るひまわりとともに、巨大な入道雲が映し出されていた。 「空も見てください。大きな入道雲。これだけで、ひとつの絵として完成しそうな、そんな感じがしますよね」  僕は、最後まで見ることなく、家を飛び出した。  くつわ町。  くつわ町。  くつわ町。  念仏のようにつぶやきながら、なけなしのお金を持って駅にたどり着く。  くつわ町行きの電車。  いくつか乗り換えないといけないが、幸いにも電車は通っている。
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