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「あれ、なんて言おうとしていたの?」
「え、と……。それは……」
「教えて」
しどろもどろになる僕を、いたずらっ子のように上目づかいで見上げる彼女。
ダメだ、あの時は言える勇気があったけど、今は何も言えない。
「こ、今度の夢の中じゃ、ダメかな」
「ダメ。夢の中だと、私が起きてしまうもの」
「起きてしまう?」
「今朝はね、ようすけの言葉を待っていたら急に心臓がバクバクいっちゃって。あ、ヤバいって思ったら汗びっしょりで目が覚めてたの。ごめんね。私が起きたせいで夢が終わっちゃったね」
そうか。
そうだったのか。
あれは、ルール違反とかそういうものじゃなかったんだ。
彼女が目を覚ました、だから僕も目を覚ましたんだ。
告白する、そのことで頭がいっぱいだった僕は、全然気が付かなかった。
「今も、心臓がバクバクいってる。きっと、夢の中だと受け止めきれない」
真っ赤に顔を染める彼女を見て、僕は理解した。
彼女は、待っている。
僕の言葉を。夢の続きを。
「ひなた」
僕は勇気を振り絞って、夢で言えなかった言葉を伝えた。
「ひなた、僕は君のことを、心から……」
最後の言葉は、風に流された。
たぶん、ひなたの耳にしか届いていないだろう。
ひなたは、嬉しそうに、恥ずかしそうに、涙を流して微笑んだ。
僕はその笑顔を見て思った。
彼女の笑顔は、どんなひまわりよりも輝いていると。
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