ひまわりが咲く頃に

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 夢の続きが見られたのは、やはり翌年のひまわりの咲く頃だった。  前回と同じく、僕とひなたは1年分の成長を遂げていた。 「あなたは、何をしているの?」 「僕も、何もしていない。ただ、入道雲を眺めながら走っていただけ」 「入道雲?」 「ほら。すごいきれい」  指差す僕の先には、綿あめのような巨大な積乱雲が空に広がっていた。 「わあ、ほんと。全然、気が付かなかった」  圧倒される入道雲の大きさに、ひなたは嘆息をもらす。  気が付けば、空を見上げる彼女の背は僕を追い越しており、なんだか思った以上に大人びた雰囲気が漂っていた。 「ようすけは、雲、好きなの?」  見惚れていた僕は、そんな言葉を投げかけられて思わず肩を震わせる。 「う、うん。好き。大好き」  その答えに満足したのか、ひなたはニッコリと笑った。 「そっか。好きなものに夢中になれるって、いいよね」  夢中になっていたのかどうかは、わからない。  ただ、大きな雲に憧れて少しでも近くで見ようと空を見上げながら駆け続けていたことは事実だ。  だとすれば、夢中になっていた、ということなのだろう。 「うん、そうだね。お互いにね」  そう答える僕に微笑む彼女は、少し間を置いて声を発した。 「ところで、ようすけ。わたしたちって……」  ハッと目が覚める。    気が付けば、やはりいつものベッドの上。  けたたましい目覚まし時計の音が、僕の耳をつんざいている。  むくり、と起き上がる僕の脳裏には、彼女の最後の言葉が残っていた。 「ところで、わたしたちって……」  なんだ?  何を言おうとしていた?  これは夢だ、と思いながらもどこか期待している自分がいる。  まさか夢に出てくるあの少女、ひなたも同じ夢を見ているのではないだろうか、と。  しかし、確証はない。現実的でもない。  第一、あのひまわり畑の場所なんて僕は知らない。  夢は願望のあらわれ、ともいう。  あり得ないことが起こるのが夢だ。  だとしたら、淡い期待をしないほうがいい。  僕はすぐにその想いを断ちきった。
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