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あ、戻れたんだ、とかすかに残った記憶と同時に感じたのが、異常な体の痛み。当たり前だ。車にはねられて随分と意識もなく、自覚はないが生死を彷徨ったのだから、体中が悲鳴を上げるような痛みに覆われていても不思議ではない。意識がまた遠のきそうになるけれど、この痛みが生きている証。
「貴祥……」
耳から聞こえるのは懐かしい大好きな声。
俺は優しく起こされるように、目を醒ました。初めに目にしたのは今にも泣きそうな彼の顔。その後ろには窓越しにあの時見たのと同じように大きな大きな夕陽。絵画のように綺麗だった。
「大好き……だよ、克、己」
まるで自分の声とは思えないような掠れた声。だけど、どうしてもどうしても伝えたかった言葉と、呼びたかった彼の名前は言えた。彼は驚いたような顔をしていたけれど、泣き笑いの様な顔になり、ギュッと俺の手を強く握り
「俺もだよ、貴祥」
と応えてくれた。遠回りをしたけれど、ここが俺たちのスタートライン。
今日、君に会いに行く。
明日、君に会いに行く。
明後日も明々後日もずっとずっと、君に会いに行く。
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