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奴に文句を言われたことなんて一度もない。ただ、遅くなって走っていく俺をいつも笑顔で、苦笑も入っているだろうけれど迎えてくれる。奴の名誉のためにも言っておかないとなと
「……あいつに文句言われたこと、ないぞ?」
と告げれば
「えっ? えー、ありえない。 本当に好かれているの?」
と返ってきた。
思えばこれが悪魔の囁きだったのだろう。
急に、文句を言われない自分が本当に好かれているのか不安に駆られた。人それぞれ、態度も対応も違って当たり前なのに、本当は俺のことをどう思っているのだろうと、気になって気になって仕方がない。
「待ち合わせ場所に一緒に行って彼がどんな反応するか、試してみたら」
その言葉に思わず
「ああ」
と言ってしまうくらいに、俺は不安を抱えていたようだった。奴はいつだって正面から俺を見てくれていたのに、俺は奴のことが大切で大切で大好きだと言うのに、それなのに試すようなことをしてしまった。
俺も、奴も、そして話を持ってきたあいつも、誰もが傷つくしかないことなのに。そして俺は奴に
「二度と会わない、ばかやろうっっ」
と怒鳴られた。走り去る奴の背中は泣いているようで、ただそれを見送るしかできなかった。
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