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「ごめんね」
奴の背中が見えなくなって少しして、ぽつんと呟かれたその言葉。
「いや、結局試したのは俺だから」
「それでも、僕があんなこと言いださなかったら……」
こいつのこんなところがいい所だと思う。憎めない奴。
「気にするな。 悪いな、俺、追いかけるから」
「うん」
「また明日な」
「……うん、また、明日」
その時は、疑いもなくいつもと変わらない明日が来るものだと思っていた、最低な俺。一寸先は闇。後悔先に立たず。後に色々な言葉が思い浮かぶことになるが、その時の俺は奴の背中を追いかけた。
早く掴まえてただ、ごめんと言いたかった。情けないけれど不安に思っていたことを洗いざらい吐いてもいい。俺はお前が好きだと伝えたい。だから見えない背中をただひたすら追いかけた。
思い当るところをあちこち手当たり次第に当ってみて、なかなか見つからない奴の背中に焦れて、それでも俺には走って探すことしか出来なくて、どれくらい時が経ったか、救急車の音が俺の不安を掻き立てるかのように聞こえてきた。
何気なくその救急車の向かう方向に走っていた俺は、やがて救急車の止まった先に、探していた人を見つけた。
「貴祥っ」
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