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自分がどこの病院に入院しているのか、自分の事なのにわからなかったけど、いつも彼が現れるときのように我武者羅に走って走って、彼を求める。
早く会いたい。
早く会いに行きたい。
この界隈の大きい病院を近い順にあたることにした俺は、とにかく走った。3つ目の病院は少し遠かったけど、きっとそこに自分はいるとはやる気持ちと、ついてこない足に何度も転びかけながら、なんとかそこまで辿り着いた。
“貴祥……貴祥……”
病院から聞こえてくる俺の名前。
こんなにも大切に自分の名前を呼んでくれる人がいる。こんなにも切なく呼ばれる自分の名前がある。胸に湧いてくるのは少し照れくさいけれど、きっと愛おしさで、俺も彼の名前を呼びたい。彼に応えたい。
自分の体にどうやって戻ればいいかなんて、今の今まで考えたことはなかったけれど、深く考えるまでもなく、
“貴祥……帰ってこい……貴祥っ”
その切実とした祈りと願いが込められた俺の名前に、何かに吸い込まれていくように俺は少しづつ消えて行った。
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