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車のエンジン音はなかった。ハンドルやアクセル、ブレーキバーも、とうの昔に消え去り、運転という行為は、一部のモータースポーツやレクリエーションとして残っているに過ぎなかった。
黒田は車内のシートに深く座り込み、窓にもたれながら眠っていた。その隣にいる大友は、自身の腕時計から放射される、3Dホログラムディスプレイを指で操作していた。ディスプレイ画面には墓の絵図や解説が並んでいた。
「なぁ、墓って知ってるか?」大友が黒田に顔を向けて言う。
「また歴史小説か?」
黒田は目を擦りながら、そう聞き返した。
「違うよ」
「墓くらい知ってるに決まってるだろ。それぐらい習ってるさ」
「だが見たことはないだろ?」
「そうだな……お前は?」
「この前、旅行で数百年前の墓地を見てきてな……」
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