第三章 老婆

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 黒田は腕時計を見た。老婆のために孫娘との時間を割いてあげたいのは山々だったが、自分にも家庭があり、これ以上遅くなるとまずいと思った。 大友もそれを察し、老婆にこう告げた。 「お婆さん、すみません。俺らは引き上げなくてはいけません」  老婆は頷くと、「長い時間ありがとうございました」と頭を下げた。しかし孫娘からは目を離すことができず、心残りな様子を見せた。 「……。お婆さん、お墓を作りませんか?」大友が提案した。 「お墓?」 「習ったことありますよね?」 「もちろん知っていますけど……」 「死者を葬る場所です。これを作ればいつでも孫娘さんに会いに行けます」  大友は腕時計からホログラムを放射させ、墓について話した。一通りの説明を受け、老婆は「作らせてください」と言った。  黒田は驚いた。死者を財産化しない人など、今まで出会ったことがなかったからだ。 「本当にいいんですか?」  黒田の問いに、老婆は首を縦に振った。 「お爺さんのミークもありますし、孫娘まで食べる気になりません」  老婆は眠る遺体を見た。あどけない表情で寝ている孫娘を食べる……そんな気など起こせるはずがなかった。 「では契約書にサインを……」  大友の時計から放射されたホログラムは契約書類へと切り替わった。遺体をミーク化しないという財産放棄の書類である。  老婆は書類に目を通すと、指先でホログラム上にサインを書いた。
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