第一章 運搬

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「墓はどうだった?」 「そうだな。この仕事を辞めようかと思うくらいに、価値観が変わったな……」 「どういうことだ、それは?」黒田は身を起こし、大友を見る。 「今の時代、死んだ人間に対して敬意がなさすぎるってことさ」 「バカ言え。お袋が死んだ時、俺は泣いたぜ」 「でもすぐに忘れるだろ。食料になって、胃の中に入れば思い出さない。昔は死んだ後も定期的に故人を偲んだんだ。墓を作ってな。今は死ねばすぐに食料。悲しむ隙も暇も与えない」    車内に到着のアナウンスが流れた。黒田は髪を整え、スーツのネクタイを締め直した。大友はホログラムを閉じ、窓から外の景色を眺めた。空の底は赤みを帯びていた。夜は近い。 「これでラストだが、だいぶ遅くなったな」大友は頭を掻いた。 「文句は車に言うんだな」  車は交通量の少ない道を自動計算し、最も早く目的地に着くルートを選び、運んでくれるはずだった。しかし計算ミスが重なったようだった。
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