第一章 運搬

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「おかげで時間外労働だ」 大友は車のダッシュボードを手で軽く叩きながら、乾いた笑みを浮かべた。 「国立のくせにセンターもケチだよな」 「ああ。車もボロければ、給料もボロだ」 「残業代出ないんだ。とっととやっちまおう」  目的地に到着した二人は車から出た。黒田は、後ろの荷台を開けた。扉の向こうから、ブロック積みされたアルミ製の箱があらわれた。  大友は目的地の家のチャイムを鳴らし、身分証を見せた。そして、家人に対し簡単な挨拶を済ませ、腕時計から放射されるホログラムの書類にサインをもらい、玄関の扉を開けさせてもらった。 「三年分か」  黒田はそう呟くと、荷下ろし専用マシンを起動させた。荷台の上にあった箱は次々に、マシンによって下ろされ、玄関口へと運ばれていく。  この箱にミークが詰め込まれている。ミークは小さなキューブ状に圧縮乾燥されており、重量も軽く、調理法によっては、人造米からパンやパスタにまで、幅広く応用できる食材であった。  圧縮されているとはいえ、一家を三年分養う量である。マシンだけで運び出すのには時間がかかる。黒田と大友も人力で、箱を玄関へ運び入れ、業務が終わる頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
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