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幸多き日々と選択を
子猫と少女に会うことが、通勤前の俺の日課だ。
住宅街から少し外れた神社。
あるのは鬱蒼とした木々に囲まれる、鳥居と社だけ。
いったい誰が管理しているのか、放置されているとしか思えない。
そんな人足遠のく、寂れた場所に注ぐ春の木漏れ日の下。
一人と一匹は、今日もいる。
「おじさん! どーも、お勤めご苦労さまです」
「おはようございます、だ」
おかっぱ頭の少女の朝の挨拶を正して、俺は脱力した笑みを浮かべた。
まだ中学生特有の、幼さの残る屈託のない笑顔。
セーラー服の白いブラウスが眩しいったらない。
「それに何回も言うようだけど、俺はおじさんって年じゃあない」
「えー、おじさんは会社勤めの方なんですから、ご苦労さまが普通なのでは?」
「突っ込んで欲しいのはそっちじゃないよ。それにご苦労さまってのは、目上の人に対してはだな……あぁ、もういいや。挨拶できるだけ立派だよ、君は」
中学生に今から社会一般のマナーを説くのも酷だろうと、さっさと話題を切り上げる。
長話をして会社に遅れるわけにはいかないのだ。
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