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「まって、」
立ち上がった瞬間に、ぱっとシャツの裾を掴まれる。
掴んだ本人の方を見ると、さっきよりも真っ赤になって俯いている。
「たぶん…入る。」
世界一どころか、宇宙一可愛い姿を見せられて最高に煽られているのだが、そんなに焦らなくても、と声をかけようとしたところで先にうみの口が開く。
「初めてじゃ、ないから…」
消え入りそうな声だったが、しっかりと俺の耳に届いた。
「は?」
無意識に顔が強張っていたのか、ちらりとこちらを見た海斗が必死に言い訳をする。
「あ!ちがくて!初めてだよ!初めてなんだけど、でも、ちがくて…」
しどろもどろになりながら、必死で何かを伝えようとするのだが、自分でも驚くほどの冷たい声で返してしまう。
「いや、別にいいよ。初めてじゃなくても。俺も人の事言えないし…ただ…」
面白くない。そんな自分勝手な考えが浮かんで、言葉に詰まる。
そうだよな、人の事を言えた義理じゃない。しかし、自分の可愛いうみが他の誰かに穢されたかと思うと、面白くないどころか腹が立つ。それが自分に向けてなのか、海斗か、はたまた見果てぬ相手へのものかは分からない。
そんな風に訳の分からない感情に悶々としている俺の横で、海斗はがさごそとクローゼットを探っていた。
「あった!はい!」
場違いなほど元気よく俺に何かを渡してきた海斗は、ベッドの上で体育座りをした膝の上に顔を乗せて、下唇を緩く噛んで恥ずかしそうにこちらを見上げている。
「なにこれ?」
そういって、手の中の大きめのポーチを見下ろす。
「も、もらったの…。あいりと菜々に。去年の誕生日プレゼント。」
顔の位置はそのままに、視線だけしっかりと外して恥ずかしがっている様子からすると、俺に中身を確認して欲しいようだ。
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