カルテ2 はーと・クリニック

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たった今、クライアントさんの話、してましたよね。 どこで、切り替わったのだろう。  複雑な、表現できない、そんな感情を露わにわたしが返答に詰まっていると。 「ただいまー! あらっ、蓉子ちゃん! 帰ってたの!?」  このみさん登場。 蓉子先生、タバコをくわえたまま、敬礼して。 「はい、ただいま」 「お昼、蓉子ちゃんの分買ってきてないわよ~」 「あら~、じゃあ菊乃のを貰っちゃおう」 「ダメです」 「しょうがないわね、私の少し分けてあげるから」  このみさん一人帰ってきただけで部屋が急に賑やかになる。  バタバタとお昼の準備を始めるこのみさんを見ながら、わたしは緒方君の名刺を手帳に挟んだ。  きっかけ。  遼太を思い出すきっかけには、なってしまった。 でも、別れ際、緒方君がわたしに言った。 『新しい一歩を踏み出す為には、蓋をして見ないフリをするより、ショック療法的に突きつけて嫌でも見つめ直す、というのもありと思うな』  とても意味深なセリフだなって、思った――。  
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