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声があまりにも柔らかくて優しくて、やさぐれ気味のわたしの心に染みて涙が出そうになった。
でも、ギュッと目を閉じ、涙は堪える。
それにしても、ここはどこだろう。
そう思った時、緒方君が静かに話し出す。
「ここは僕が働いてるクリニック。
この前、翠川さんが来たクリニックの待合室だよ」
わたしはそっと目を開けて、周囲を確認した。
照明は落としていて薄暗かったけど見覚えのある場所だった。
そうだ、ここ……。
急激な覚醒を見たはずだったのに、緒方君の包み込むような優しさに安心してしまったのか、わたしの頭の中はまだどこか薄ぼんやりとしていた。
疑問はどんどん湧いてくるのに。
わたしがどうしてこんなところにいるの?
一緒にいたはずの千尋は?
わたしのそんな気持ちをそっと抱くように緒方君は話しを続けた。
「今夜ね、僕も駅前で少し呑んでたんだ。
そろそろ帰ろうかな、と思って外に出たら、呑み潰れちゃった女の人とそれを介抱する友人、という二人連れがいてね。
傍を通りかかったから何気なく見たら――」
緒方君、クスクス。
ああやだ、そんな。
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