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思わず両手で顔を覆った。
もう本当に最悪だ。
どん底に突き落とされたような気持ちで顔も見せられないわたしの頭を緒方君がそっと撫でた。
髪に触れる手が、すごく優しくてドキッとした。
緒方君……。
「高校時代の翠川さんからはちょっと考えられない姿に驚かされた」
両手で顔を覆ったままのわたしに、緒方君はそっと言った。
「色々あるお年頃だよね。
いいんだよ、呑みたい時は呑んで、泣きたい時は思いきり泣いて。
それが出来る人は心が健全なんだ」
わたしの心にフワッと柔らかな風が舞い込む。
駄目だ、泣いてしまう。
今のわたしにそんなに優しくしないでよ。
心が抱き締められたみたいで込み上げてくる感情は、忘れていた何か。
新しい、感情を生まれさせようとする何か。
いけない。
わたしが〝それ〟を無意識に摘み取ろうとした時。
「あ、でも友達に迷惑を掛けるのはあまりよろしくないかな」
芽吹きそうだった〝なにか〟は、今の一言が一陣の風となって浚っていった。
わたしの視界が一気開けて見えた現実は。
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