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恐らく、学会か何かで、どこかに行った時ね。
「高校以来会ってもいない同級生だったら、恐らく近江さんもこうして僕に任せたりはしなかったんじゃないかな」
緒方君の視線がすっと外れ、声がくぐもった。わたしはハッとする。
そうだ、緒方君は――。
「僕は、みんなと卒業できなかったからね」
そうだった。
緒方君は、わたし達同級生と一緒に卒業できなかったんだ。
高校3年の暮れに起こしてしまった一つの騒動がきっかけで、緒方君は退学したんだった。
うっすらとしか覚えていなかった過去の記憶が、少しずつわたしの脳裏に拡がり始めた。
緒方君は確か、あの時付き合っていた彼女と――、
不意に、胸がズキンと痛んだ。
そうよ、緒方君はどうして医者に?
どうして、精神科を専門にすることにしたの?
下から見上げる緒方君の綺麗な顔にできた陰影が、少し悲しく見えて、心が苦しくなった。
ごめんね緒方君、わたしは、何もしてあげられない。
「ありがと、もう、大丈夫だよ」
わたしはそう言ってそっと起き上がった。
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