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すると、緒方君の顔が今見せた憂いの表情から変わってフワリと柔らかくなる。
「良かった。
でもさすがに、女の人が前後不覚になるくらい呑むのは、気を付けないと駄目だね」
わたしは緒方君の隣に座って首を竦めた。
そんなわたしを見て、緒方君はクスッと笑った。
「僕だから良かったものの」
わたしは、一瞬キョトンとして。
「あっ、やだ!」
思わず手で顔と身体を確かめてしまった。
それを見て緒方君はアハハと笑った。
「残念ながら、何もしてないよ。
菊乃に何かしたらただじゃおかない、って近江さんに釘刺されたし」
「やだもう、千尋は」
そう言いながら、わたしは明るく笑う緒方君をちらりと見た。
ボタンは二つ外したワイシャツに、センスが光るネクタイは少し緩めてる。
仕事終わりで疲れているだろうに、こんな酔い潰れた女に付き合ってくれて。
同い年だけど、本当に落ち着いていて、真のジェントルマン。
わたしは、そっと深呼吸をした。
緒方君は心療内科医。
きっと、誰にでも優しいの。
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