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美しく凛とした張りのある声は、稽古場に居合わせる者全員の気持ちを引き締めさせるようで、皆自分が怒られたのかと思う程、背筋を伸ばしていた。
嫌で嫌で仕方ない時期もあったけれど、着物を着て扇子を持って舞台に立つと、気持ちが引き締まる。
日舞は結局、わたしの一部になっている。
長唄〝藤娘〟に合せて躍る。
でも、飛び入りのように入ったわたしと綾乃ちゃんは、他のお弟子さん達のお邪魔にならぬよう、隅で躍った。
それにしても、日舞はずっと中腰で。
しとやかに、しなやかに舞っているように見えて実は結構ハード。
明日は確実に、地味に筋肉痛だわ。
☆
お稽古があった日は、夕食はお弟子さん達と共に取るのが、この家の習わし。
夕食の準備はお弟子さん達がお当番制でしてくれている。
お稽古が終わり、上がってくるともう食卓には食事の用意ができていた。
「菊乃ちゃんはやっぱり先生や先代様が仕込んだだけはありますね。
それにスポーツやっていた方は足腰の入り方が違うのでしょうか」
広い食堂の長方形の大きなテーブルを全員囲み、食事が始まると、お弟子さんの誰かがお世辞を言った。
主賓席みたいな場所にどんと構える母はそれを聞いて厳かに言う。
「とんでもない。
今名取や師範名取を目指して日々精進してらっしゃるあなた達の方がよっぽど立派に踊れていますよ」
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