カルテ6 微熱

10/14
前へ
/27ページ
次へ
『そんな事を考えていたらこの仕事やってられないわよ』  蓉子先生に何度も言われた厳しい言葉。 でも、わたしはどうしても離婚を巡るあれこれを余計に考えてしまう。 『もっとビジネスライクにやりなさい』  これも、蓉子先生のお言葉。  駄目だ、向いてないのかなこの仕事。  パソコンに向かっていたわたしはフルフルッと頭を振った。  ただ、縁があって一緒になったと言っても、最初から、どこか違う、何かを間違えた、という気持ちを抱えざる得ない婚姻も確かに存在している。 そういう場合、やはり弱い立場に立たされていることが多い女性を守りたいから、わたしはこの仕事に飛び込んだんじゃないの。  胸の中にいる自分にそう言い聞かせ、資料のホルダをマウスでクリックしてデスクトップに展開させた。  手帳やタブレットと照らし合わせて、入力しながら、クライアントさん一人一人の事を考える。  やっぱり、これはどうなんだろう、っていうケースに当たることもあるのも、事実。  出て来た近藤恵果さんの資料を、もう一度読み直しながらふと思った。  緒方君の、気になることってなんだろう。  緒方君があの夜わたしの手の中に入れてくれたのは、プライベートの連絡先だった。 プライベート、だと思う。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加