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『そんな事を考えていたらこの仕事やってられないわよ』
蓉子先生に何度も言われた厳しい言葉。
でも、わたしはどうしても離婚を巡るあれこれを余計に考えてしまう。
『もっとビジネスライクにやりなさい』
これも、蓉子先生のお言葉。
駄目だ、向いてないのかなこの仕事。
パソコンに向かっていたわたしはフルフルッと頭を振った。
ただ、縁があって一緒になったと言っても、最初から、どこか違う、何かを間違えた、という気持ちを抱えざる得ない婚姻も確かに存在している。
そういう場合、やはり弱い立場に立たされていることが多い女性を守りたいから、わたしはこの仕事に飛び込んだんじゃないの。
胸の中にいる自分にそう言い聞かせ、資料のホルダをマウスでクリックしてデスクトップに展開させた。
手帳やタブレットと照らし合わせて、入力しながら、クライアントさん一人一人の事を考える。
やっぱり、これはどうなんだろう、っていうケースに当たることもあるのも、事実。
出て来た近藤恵果さんの資料を、もう一度読み直しながらふと思った。
緒方君の、気になることってなんだろう。
緒方君があの夜わたしの手の中に入れてくれたのは、プライベートの連絡先だった。
プライベート、だと思う。
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