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いつ、わたしから連絡が入ってもいいように、って。
普段は忙しくて、直接の仕事に関わること以外のものに取り掛かる時はいつもこんな時間になるという。
本当に頭が下がる。
わたしは一度は閉じた目を開けた。
暗闇に慣れた目に竿縁天井が映っていた。
築年数が経っているこの古い日本家屋は全ての部屋が和室で、わたしの部屋も例に漏れず、リフォームもしていない古めかしい部屋を出来うる限りで洋風にしたのだけど、この天井だけはどうにもならない。
けれど、考え事をする時、思い切り深呼吸をすると落ち着く‘匂い’があった。
古い、木の家の匂いが、わたしの混沌とする脳内を落ち着かせる。
わたしはもう一度、目を閉じた。
緒方君の話は、今回の案件を少しばかり複雑に変えてしまうものだった。
それは、近藤さんのご主人の話。
『実は、クリニックの院長をしている先輩が、銀座にもう一つ開院したから忙しくて幾人かの患者さんを僕に回したんだ。
その中に近藤さんのご主人がいたんだよ』
それは衝撃の事実。
その御主人が今現在治療に通っているとしたら、奥さんである恵果さんが出した診断書が宙ぶらりんになる可能性がある。
けれど、事態はそれではすまなかった。
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