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『ご主人、うつを患ってる。
しかも、かなり長く』
聞いた瞬間、その事実がどう転ぶだろう、と考えた。
もしも、恵果さんがその事を知らずに結婚していたとすれば、離婚に一歩前進となる。
けれど、知っていた上での結婚だとしたら、好転は望めない。
なぜなら夫婦には、お互い協力し合わなければいけない、という法的縛りがあるからだ。
夫の疾患を知り、了承して結婚したのならば、それを支え共に乗り越えよう、という覚悟があった、とみなされる。
そうなると、今回の離婚はそれを身勝手に投げ出す、ということにも捉えられかねない。
恵果さんの話の中に、ご主人のうつに関する情報はなかった。
うつは、理由ではないから、ということ?
暗闇の中、わたしは寝返りを打った。
ともかく、明日だ。
明日、恵果さんに会いに行こう、と思ったところで睡魔の足音がやっと聞こえてきた。
うとうとと意識が溶けていくわたしの耳に、少し前に聞いていた緒方君の声が残っていた。
また、声が聞きたい、とか。
今度は、会って仕事以外の話がしてみたいの、とか。
夢と現を行き来する意識下で浮かんでは消え、寄せては引く波のように、淡い期待を抱く自分と、現実を見なさい、という自分とが頭の中に交互に現れ、ケンカしていた。
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