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緒方君にこれ以上近づくことは、傷口を拡げることになるのだろうか?
それとも、少しでもこの傷を風化させて、傷痕と変えてくれる手助けとなるのだろうか?
どうなんだろうね、緒方君。
クリニックを出た頃には日付が変わっていた。
駅前のロータリーでタクシー乗り場には終電を逃してタクシーを待つ人の列が出来ていた。
緒方君が「翠川さんが無事に乗るのをちゃんと見届けないと」と言って一緒に並んでくれた。
「午前様だけど、大丈夫?」
緒方君の言葉にわたしは苦笑い。
「一応、とっくに成人を迎えた大人なので自己責任よ。
そうでなくとも、うちの母は娘の問題行動には免疫があるから」
「免疫?」
わたしの顔を覗き込むようにして首を傾げた緒方君。
その仕草にちょっぴりドキッとする。
何気ない仕草も画になってしまう。
「僕の知ってる翠川さんは、親御さんに問題行動の免疫付けさせるタイプではないけどな」
意味深な言い方をしてクスッと笑った緒方君に、わたしはますます苦笑い。
「高校時代、外泊とかやらかしてたの、知ってるくせに」
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