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薄暗い廊下を黙して抜けたわたし達は、8階であるこの階にちょうど止まっていたエレベーターに乗り込んだ。
ドアがゆっくりとスライドして締まり、わたしが指定階数ボタンに手を伸ばした時。
「!?」
ボタンを押そうとしていた手が掴まれた。
「れいさ……っ」
そのまま手をグイッと引っ張られ、エレベーターの壁にドンと身体を押し付けられた。
息も出来ないくらいに驚くわたしは、目を見開いて玲さんの顔を見上げた。
玲さんの端正な顔が、目の前に迫っていた。
普段は上品で麗しい玲さんの仮面の下に隠れている本性は。
とても強引で俺様な男。
お付き合いしている間に惜しみなく愛情は注いでくれた。
でも、付いていけなくなったのだ。
どんなに仕事が出来ても、素晴らしい肩書を持っていても、優しさと包容力は遼太の足元にも及ばなかった。
遼太の影を追っていたわたしには、強引に全てを求めてくる玲さんを、心の底から受け入れる事はできなかった。
エレベーターには、降りる階の指定ボタンを押さないと動き出さない密室。
手を掴まれ、壁に押し付けられているわたしは、身動きが取れない。
この密室を解放するのは、他の階で誰かがボタンを押す時か、この階に今いる者が外からボタンを押すか。
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