カルテ7 元婚約者、現る

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 現在この階には、芙蓉法律事務所しか入っておらず、その事務所には蓉子先生は外出中で、このみさんしかいない。 留守番をするこのみさんが事務所を出て来ることは、まずない。 だから、可能性のあるのは前者のみ。  バクバクと鳴る心臓の音が頭にガンガンと響いていた。  玲さんの、切れ長のクールな目がわたしを捉えて離さない。 その目を見ていてパッと脳裏に浮かんだのは緒方君の目だった。 緒方君の目は同じ切れ長でも全然違う。 緒方君の目は柔らかな、アーモンド型の、優しい目だった。 綺麗な、澄んだ黒い瞳だった。  玲さんの目は、見る者を吸い込みそうなの。 恐い。  背中が密着するエレベーターの無機質な鉄の感触が、わたしの熱を奪っていく。  瞬きも出来ないわたしを見て、玲さんはクックと笑った。 「僕がこの仕事を受けた本当の理由。 教えてやろうか」  ドクン。  心臓が、一際大きな音を立てる。 玲さんの目が、冷たく光った気がした。 「菊乃を、潰す為だよ」
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