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現在この階には、芙蓉法律事務所しか入っておらず、その事務所には蓉子先生は外出中で、このみさんしかいない。
留守番をするこのみさんが事務所を出て来ることは、まずない。
だから、可能性のあるのは前者のみ。
バクバクと鳴る心臓の音が頭にガンガンと響いていた。
玲さんの、切れ長のクールな目がわたしを捉えて離さない。
その目を見ていてパッと脳裏に浮かんだのは緒方君の目だった。
緒方君の目は同じ切れ長でも全然違う。
緒方君の目は柔らかな、アーモンド型の、優しい目だった。
綺麗な、澄んだ黒い瞳だった。
玲さんの目は、見る者を吸い込みそうなの。
恐い。
背中が密着するエレベーターの無機質な鉄の感触が、わたしの熱を奪っていく。
瞬きも出来ないわたしを見て、玲さんはクックと笑った。
「僕がこの仕事を受けた本当の理由。
教えてやろうか」
ドクン。
心臓が、一際大きな音を立てる。
玲さんの目が、冷たく光った気がした。
「菊乃を、潰す為だよ」
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