カルテ7 元婚約者、現る

11/13
前へ
/27ページ
次へ
 わたしは、固唾を呑んでいた。  潰す――。 固唾を呑み、声すら発する事の出来ないわたしに玲さんはフッと笑い、止めを刺した。 「僕の警告を無視して弁護士を続けている君を、ね」 全身、鳥肌が立つような感覚。 立っているのがやっとだった。 玲さんの左手の人差し指がスッとわたしの顎に掛けられた。 「僕をフッたこと、後悔させてやるよ」  その言葉と同時に、玲さんの顔が近づく。 そして――。  何度も、幾度も重ねたことのある唇だった。 でも、今回ほど乱暴で、強引なキスは初めてだった。  わたしは全力で玲さんを突き飛ばした。 掴まれていた手も必死に振り払う。 ドアを開くボタンを押して外に飛び出した。  口元を手で拭いながら中を見ると、モデルのような佇まいの玲さんは余裕の表情で、スラックスのポケットに手を突っ込み、もう片方の手を振っていた。 ドアが閉まる時、玲さんの口元が動くのが見えた。 『またな、菊乃』  そう言っていたようだった。  
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加