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わたしは、固唾を呑んでいた。
潰す――。
固唾を呑み、声すら発する事の出来ないわたしに玲さんはフッと笑い、止めを刺した。
「僕の警告を無視して弁護士を続けている君を、ね」
全身、鳥肌が立つような感覚。
立っているのがやっとだった。
玲さんの左手の人差し指がスッとわたしの顎に掛けられた。
「僕をフッたこと、後悔させてやるよ」
その言葉と同時に、玲さんの顔が近づく。
そして――。
何度も、幾度も重ねたことのある唇だった。
でも、今回ほど乱暴で、強引なキスは初めてだった。
わたしは全力で玲さんを突き飛ばした。
掴まれていた手も必死に振り払う。
ドアを開くボタンを押して外に飛び出した。
口元を手で拭いながら中を見ると、モデルのような佇まいの玲さんは余裕の表情で、スラックスのポケットに手を突っ込み、もう片方の手を振っていた。
ドアが閉まる時、玲さんの口元が動くのが見えた。
『またな、菊乃』
そう言っていたようだった。
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