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遼太にもよくは話していないわたしの家の実情。
緒方君がこんな話を聞いたって――、
「今度、ゆっくり聞かせて。翠川さんのこと」
え? とわたしが顔を上げると、高い位置にある緒方君の顔が、ふわっと笑った。
「おがたく……」
それって? って聞こうとした時、わたしは列の先頭になっており、目の前に滑り込んで来たタクシーの自動ドアが開け放たれた。
「翠川さん、これ」
わたしをタクシーの車内に促してくれた緒方君。
その時、わたしの手の中にそっとメモを握らせた。
「実は、この間話しのあった翠川さんのクライアントさんのことでちょっと気になることがあるんだ。
ごめん、もしかしたらあれでは済まないかもしれない。
何か起きたら必ず何かしらの協力をするから連絡して」
「気になること?」
タクシーの中にすっかり乗り込んでいたわたしは気になって、もう一度降りそうになったけれど。
「おやすみ」
そう言って優しく微笑んで手を振った緒方君にはそれ以上何も言えなかった。
ドアが、バタンと閉まり、運転手さんに行き先を告げると車は走り出した。
わたしは思わず車窓に貼り付き外を見る。
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