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背の高い緒方君の姿は、こんな深夜でも灯り溢れるロータリーで目立つ。
わたしの乗ったタクシーをずっと見送ってくれていた緒方君は、次に来た車に乗り込み、見えなくなった。
後ろから来た緒方君のタクシーは、ロータリーを出て直ぐに反対方向に曲がり、宵闇に消えて行った。
忘れかけていた感覚が胸に蘇る。
でも、これ以上は進めない。
辛い想いはこれ以上したくない。
もういい年だもの。
感情のコントロールくらい、簡単。
そんな風に思っていた。この時は。
☆
「Guten Abend!」
あの呑んだくれて潰れてしまった翌々日。
深夜、寝入りばな、携帯が鳴った。
目を擦りながら出てみると耳に飛び込んできたのは千尋の元気な声だった。
時計は1時を指していた。
「ちひろ……」
今何時だと思って、という言葉が口先まで出かかったけれど、千尋には先日の借りがあるのでここは非礼も黙殺。
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