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千尋は、そんなわたしの心を見透かしたようにクスクスと笑っていた。
「ごめんね~。でも菊乃あの時寝ちゃってて、タクシーに乗せたって危ないと思ったのよ。
そこに緒方君登場、というわけね。
それに、緒方君ならまあいっかって思っちゃったの」
〝まあいっか〟って。
「ちひろ……」
「良かったじゃない、ホテルに連れ込んだりしなかったワケだし」
そういう問題じゃなくてね。
その、千尋が言う‘まあいっか’がどこに掛かるのか、地味に気に掛かるんですけどね。
「緒方君なら、菊乃にいいかなってちらっと思ったのも事実」
千尋がぽろりと明かした。
わたしの胸が一瞬ドキッと跳ねたけど。
「それはムリ、かな」
少しの間を置いて千尋は。
「もうそろそろ、いいと思うんだけどね」
千尋の言葉はきっと、あれやこれや、諸々のものに掛かっているのだと思う。
彼の事は過去の事と割り切りなさい、っていうことなんだよね。
割り切れたら、どんなに楽か。
割り切れないからまだこんな風にウジウジしているんだから。
「分かんない」
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