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ただでさえ当時のわたしは、周囲のことなんて見えていなかったのだから。
ひたすら事務所内で与えられた仕事、主に書類の作成や文献、資料の収集、分析、を熟してその合間に勉強。
心に一分の余裕もなかったの。
けれど、玲さんは鮮明に覚えていたようで。
初めて事務所に見たぼろぼろのわたしに対して抱いた感想と感情をベッドで抱きしめて話してくれた。
「綺麗なのに、化粧はしてない。
小綺麗にはしてるけど、お洒落はしてない。
あの時僕はひと目で菊乃に興味を持ったんだよ。
僕はあの時、菊乃に惚れたんだね」
玲さんの感覚は、よく分からない。
でもよく考えてみれば、なんとなくは分かる。
わたしは玲さんに言った。
「自信家の玲さんは、非の打ちどころのないルックスを見ても、華々しい経歴を聞いても何の反応も示さなかった女に対して征服欲求、というものが湧いたのよ、きっと」
すると玲さんはフワッとキスをして笑った。
「そんな男は振り向かせた途端ポイッとしたりするだろ。
でも僕は違うだろ?」
「あ、ホント」
ベッドの中で顔を見合わせて笑って、またキスをして。
「ん……」
愛撫を。
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