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「ダメだったかー」
司法試験合格を目指すわたしが勉強する傍らパラリーガルとして働かせてもらっている恵比須の法律事務所。
重厚な内装の所長室には、秋の柔らかな日差しが射し込んでいた。
還暦をとっくに超えた髪の毛の薄い全体的にまるっこい印象の所長先生が、わたしの司法試験結果を聞いて、がっくりと肩を落としていた。
ガックリしたいのはわたしです、と言うわけにはいかない。
「期待していただいたのに、もうしわけありません」
頭を下げてそう言うだけで今は精一杯だった。
ショックが感情を上滑りさせている。
これ以上何か言ったらきっと涙声になる。
わたしは口を引き結んだ。
翠川は受かる! と所長先生始め事務所に在籍している先生達にも太鼓判押してもらっていただけに自分もその気になってしまっていた。
だから、最後の最後で下された不合格の審判には相当なダメージを与えられた。
本当は、直ぐにでも家に帰って大声で泣きたい気持ちで一杯だった。
オジサマ所長がわたしの言葉に「いやいや」と慌てて手を振っている姿が、頭を下げながら少し上目遣いをしたわたしの視界の端っこに見えた。
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