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「謝ることはないよ。
君は本当に頑張っていたから。
大丈夫だ。ロースクールを出て最初の試験だろ。
一発合格する奴なんて、本来ならまずいないんだ。
ともかく来年の合格を目指そう」
わたしの肩をポンと叩いて優しく笑いかけてくれた所長先生の励ましの言葉。
絶賛落ち込み中のわたしにはまだ、素直に受け入れる器は用意できなかった。
上手い切り返しが出来ず暗い顔のまま黙るわたしを見て先生は困ったな、と眉を下げた。
「そんな真っ暗な顔をしてると、君の綺麗な顔が台無しだぞ」
「先生、それはセクハラです」
一瞬の沈黙を経て先生がガハハと笑い出した。
「それが言えれば大丈夫だな」
大丈夫ではないんですけどね。
法科大学院に入った時からずっと、遊びも、そして恋も犠牲にして突っ走ってきたのにこの結果。
こんなに勉強してもダメなんて。
落とした肩がますます下がって重力に負けて地面に埋もれてしまいそう。
「来年に向けて、今までのやり方に固執せずに少し違った角度で勉強をしてみるといい。
また別の知識が頭に入ってくるだろう」
張りがあってよく通る響きの良い男性の声が背後から聞こえた。
驚いて振り返ったわたしの目に飛び込んできたのは、所長室のドアの前に立つ、スラリと背の高い瀟洒な男の人。
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