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二
出会いはバイトだった。
僕は駅前のショッピングモールに入っているチェーン展開のファミレスでバイトしていたのだが、そこに怜美がやってきた。
「柾怜美という者だ。ふつつか者だが、ヨロシク頼む」
バイト初めの挨拶は、そんな変な挨拶。
第一印象は変な女の子。
肩の上までくらいの、ストレートの黒髪がふわりと揺れている。
ただ、二コリとする笑顔はとても明るいなと感じた。
そんな怜美の教育役に、僕は指名された。
聞けば、怜美は市内の女子高に通っているという。
第一印象を裏切らず、変な女の子だった。
仕事はできた。
ものすごいできた。
覚えは早く、二言三言で客の心を掴む接客術はすごかった。
「ちょっと、これからご飯でも一緒しないかね? 教育役の人よ」
ある日、仕事終わりに怜美が言った。
「いいよ。どこ行く?」
僕は答える。
「心配するな。既に店は予約してあるのだよ」
そう言われて連れて行かれたのは……、
さっきまで働いていたファミレスの端の客席だった。
「特別待遇だ。価格も特別にバイト価格で食べて良いぞ」
そう言って怜美は笑う。
「当たり前だ。通常価格で食ってたまるか」
僕は溜息を吐いた。
そんな食事の途中で、
「ところで教育役の人」
唐突に怜美が言った。
「何だよ?」
僕がうんざりした様子で言うと、
それでも怜美はニッコリと笑って、
「私は君が好きになってしまったんだが、……君はどう思うかね?」
何とも平然とそんなことを言った。
一瞬、僕は意味が解らなかった。
それがつまり告白だと理解するまで、一日くらいかかったように思う。
始まりはそんな具合だ。
怜美の方から告白されて付き合うことになった形だった。
僕と怜美は一年程付き合っただろうか。
そして……、
二ヵ月前にフられた。
繰り返すけれど、最初は向こうから告白されたんだ。
なのに最後も向こうから言われた。
……勝手だ……。
そう思いながら自分に腹が立った。
……きっと、僕は未だ怜美のことが好きなんだ……。
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