カルテ9 深大寺

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 ああ、そんな解釈もあるんだ。  悲恋の物語は、結ばれることなく幕を閉じる。 そこにどうしても納得が出来なかったけれど、今の緒方君の言葉で少しだけ、胸につかえていたものが取れたかもしれない。  あのヒロインは、自立した女性だった。 わたしだったら? わたしだったらどうかしら――、と考えて、ハッとする。 「緒方君!」  足を止めてわたしは振り返った。  大変な事を思い出してしまった。 わたしったら、なんて小説を引き合いに出してしまったのだろう。 緒方君は、緒方君は――、  緒方君は一瞬目を丸くしたけれど、直ぐにわたしの目を見てフワリと微笑んだ。 「ありがとう、気にしてくれて。 でも僕は大丈夫だよ。 もう過去のことだからね」  過去の事。 「緒方君……」 「行こうか。この先に深沙堂というお堂もあるみたいだから。 お参りしよう」  そう言って緒方君はそっとわたしの肩に手を添えて先を促すと、少し前を歩き出した。 スリムで長身の、そこにいるだけで画になる後姿。 わたしはそこに、ほんの僅かばかり憂いを見た気がした。
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