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ああ、そんな解釈もあるんだ。
悲恋の物語は、結ばれることなく幕を閉じる。
そこにどうしても納得が出来なかったけれど、今の緒方君の言葉で少しだけ、胸につかえていたものが取れたかもしれない。
あのヒロインは、自立した女性だった。
わたしだったら? わたしだったらどうかしら――、と考えて、ハッとする。
「緒方君!」
足を止めてわたしは振り返った。
大変な事を思い出してしまった。
わたしったら、なんて小説を引き合いに出してしまったのだろう。
緒方君は、緒方君は――、
緒方君は一瞬目を丸くしたけれど、直ぐにわたしの目を見てフワリと微笑んだ。
「ありがとう、気にしてくれて。
でも僕は大丈夫だよ。
もう過去のことだからね」
過去の事。
「緒方君……」
「行こうか。この先に深沙堂というお堂もあるみたいだから。
お参りしよう」
そう言って緒方君はそっとわたしの肩に手を添えて先を促すと、少し前を歩き出した。
スリムで長身の、そこにいるだけで画になる後姿。
わたしはそこに、ほんの僅かばかり憂いを見た気がした。
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