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緒方君は高校3年の冬、当時付き合っていた彼女と心中未遂騒動を起こした。
過去の事、と今言い切った緒方君。
そうだ、あの時の彼女は、今どうしているのだろう。
確かあの時、緒方君同様、助かった筈。
けれど、今の緒方君に誰かがいる気配は感じない。
だって、もしも誰かがいれば、せっかくのお休みにわたしなんかと会わないでしょう?
それともそんな推測は、わたしのただの思い込み?
膨らむ不安が心を覆い尽くす前にわたしを踏みとどまる事が出来るだろうか。
わたしは、あの小説のヒロインのように凛としていられるだろうか。
わたしは、どんな女性でいたいのだろう。
梅雨の晴れ間の爽やかな風に揺らめいて見える緒方君の背中を見つめて、そんなことを考えていた。
お参りとお散歩を終えた頃、ちょうどお昼にいい時間になっていた。
深大寺と言えばお蕎麦でしょう! と意見が一致したわたし達は、涼やかな水音を奏でる水車小屋が傍にある、料亭風数寄屋造りのお蕎麦屋さんに入った。
奥には個室のようになった席があり、そこに通してもらった。
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