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ここであえて遼太の名前を出した意図は何だろう、なんて考えてしまう。
困った顔のまま黙ってしまったわたしに緒方君は「でも」と言葉を継いだ。
「翠川さんは実はとてもチャーミングで、ちょっとだけ強がりな女性だった」
ドキン、とした。
〝可愛い女性〟とは微妙に違うニュアンスが感じられる〝チャーミングな女性〟。
そんな事を言われたのは勿論初めてだった。
そして、〝強がり〟という言葉に一杯に張っていた糸のような気持ちが、フッと弛んだ。
どうして、そんなことまで言い当てるの。
わたしは、独りでも頑張れるって思っていたのに。
「君は普段は誰かの為に一生懸命奔走してるんだ。
だから、たまには立ち止って泣きたい時はたくさん泣いていいんだよ。
思い切り泣けば、きっとまた走り出せるから、頑張れるから」
そんなに、優しくしないで。
緒方君の優しさは、どんな意味があるの?
精神科医として?
それとも――、
込み上げて来そうな涙を、全身に力を入れて堪えながらわたしは掠れた声を絞り出した。
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