カルテ9 深大寺

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わたしの頭に手を添えたまま。 「後退するかもしれない、っていう、前に進めないかもしれないっていう恐怖は、わたしの自信を揺らがせるの。 逃げるわけにはいけないのに」  緒方君が、わたしの頭をクシャッと撫でて、フワッと笑った。そして。 「翠川さんが、理想と現実の狭間で迷子になってしまった時は、僕が必ず助けてあげるから。 だから、前に進もう。 翠川さんなら、大丈夫」  緒方君の「大丈夫」は、不思議な力を持っている。 あなたに言われると、どんな事も乗り越えられそうに思えるの。  涙が滲みそうになりながら、わたしは微笑む。 「うん、じゃあ、約束して」 「約束?」  小首を傾げた緒方君に、わたしは言った。 「わたしが困った時は必ず助けるって」  自分の口から飛び出した言葉なのに、言ってしまってから、ええ!? となった。 わたしったら、何でこんな積極的に?  言ってしまった手前、引っ込みがつかない。 うつ向くことも出来ず、自身の言葉をひっこめる訳にもいかずわたしは、目を丸くする緒方君としばし見つめ合ってしまった。  ほんの少しの間を置いて、緒方君はわたしの頭をまたクシャッと撫でてアハハと笑った。
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