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わたしの頭に手を添えたまま。
「後退するかもしれない、っていう、前に進めないかもしれないっていう恐怖は、わたしの自信を揺らがせるの。
逃げるわけにはいけないのに」
緒方君が、わたしの頭をクシャッと撫でて、フワッと笑った。そして。
「翠川さんが、理想と現実の狭間で迷子になってしまった時は、僕が必ず助けてあげるから。
だから、前に進もう。
翠川さんなら、大丈夫」
緒方君の「大丈夫」は、不思議な力を持っている。
あなたに言われると、どんな事も乗り越えられそうに思えるの。
涙が滲みそうになりながら、わたしは微笑む。
「うん、じゃあ、約束して」
「約束?」
小首を傾げた緒方君に、わたしは言った。
「わたしが困った時は必ず助けるって」
自分の口から飛び出した言葉なのに、言ってしまってから、ええ!? となった。
わたしったら、何でこんな積極的に?
言ってしまった手前、引っ込みがつかない。
うつ向くことも出来ず、自身の言葉をひっこめる訳にもいかずわたしは、目を丸くする緒方君としばし見つめ合ってしまった。
ほんの少しの間を置いて、緒方君はわたしの頭をまたクシャッと撫でてアハハと笑った。
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