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「約束する。
そうだね、絶対に破らない約束。
その代り」
その代り? 黒曜石のように美しく澄んだ瞳からスッと笑いが消えて、わたしを見据えた。
ドキンと鳴る胸を抑え、わたしは固唾を呑んだ。
「ちゃんと、僕を頼れる?」
心臓が、跳ねていた。
緒方君の目に見つめられて動けなくなるわたしは、小さく頷いた。
すると、緒方君の手がスッと額の髪の毛をよけて。
あ。
わたしは思わず目を閉じていた。
緒方君が、額にキスをしてくれた。
しなやかな手がそっと離れて、顔の前にあった緒方君の気配が遠くなったのを感じ、わたしは目を開けた。
向かいに座る緒方君は、何事も無かったようにそこにいる。
直後に。
「お待たせしましたー」
店員さんの元気な声がして、料理が運ばれて来た。
正方形のせいろに盛られた美味しそうなお蕎麦と、見栄え良く盛りつけられた季節の野菜天ぷらとかき揚げ。
「ごゆっくりどうぞ」と店員さんが置いていった伝票を、緒方君はさり気なく自分の方へ寄せ、
「食べようか」
と、ニコッと笑って言った。
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