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わたしも、うん、と頷いて笑った。
美味しいお蕎麦と天ぷらをいただく間、色んな話しをした。
高校を出てからの互いの知らない時間を埋める為に、過ごした時間の出来事を共有する為に過去の話もたくさんした。
けれどまだ、わたし達には踏み込んではいけない領域のようなものがあって。
暗黙の了解のように決して互いに触れぬ場所。
わたしは、遼太のこと。
緒方君は、あの‘彼女’のこと。
いつか、紛れもなく過去のこと、と言える日がくるのかしら。
屈託なく話せる日がくるのかしら。
そんな思いをどこかに抱えながらも、緒方君と過ごす時間は楽しくて、あっという間に過ぎていった。
☆
夕方、立川に戻って来た。緒方君は事務所の入ったビルの脇の細い道に車を停めた。
少しでも長く、緒方君と一緒にいたい、って素直に思ったのだけど、いくら人通りも車の通りも少ない場所とはいえ、白くて大きな外車セダンはちょっと目立つ。
早いとこ降りないと、誰に会うか分かったものではない。
わたしは助手席のドアを開け、足を下ろしながら運転席の緒方君の方を見た。
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