カルテ9 深大寺

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「ありがとう、緒方君。 すごく楽しかった。わたし、また頑張れる」  緒方君は、運転席から少し身を乗り出してふわりと笑った。 「それなら良かった」  わたしの胸を掴むような柔らかな笑顔と声に、自然と笑みが浮かんでしまう。 「その笑顔、また見せて」  緒方君はサラリとそんなことを言ってわたしをドキンとさせる。 じゃあ、わたしもお返し。 「また、誘ってくれたらね」  どんな反応する? と思ったけど緒方君は冷静に。 「はい、お誘いしますよ」  もう。それじゃ本心が分からない。  でも、まだ二人とも分からないのかもしれない。 互いの、距離の取り方。 もっと、近づいていいのか。 もう少しこのままの距離を保った方がいいのか。  若い時と違うから。 がむしゃらに手を伸ばすことができない。 自分の感情も、どう読んでいいのか分からない。  リスク。そうね。年を重ねた分だけ、リスクを知っているから。
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