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実は、自分でも分からないの。
ううん、昨日のあの時点では、どちらとも断言できなかった。
昨日の私では、半々くらいだったかもしれない。
でも、今は――、
「今は、教えない。
次に会った時に。
また誘ってくれるんでしょう?」
一瞬、緒方君の切れ長の目が大きくなった。
そして、アハハと笑う。
「参りました」と緒方君はわたしの腕を掴んでいた手をゆっくりと離した。
わたしは解放された手をすっと伸ばして緒方君の頬に添えた。
「誘うのも、約束?」
緒方君の優しく笑う目がわたしを見つめている。
「そう、約束よ」
互いの顔が、自然とそっと近づいて。
それは本当に自然に。
こんなキス、久しぶりだった。
重ねた唇の感触は緒方君の全てを物語る。
柔らかくて、優しかった。
ずっと、ずっと。
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